大阪地方裁判所 昭和60年(ヨ)5219号 決定
申請人
別府英子
申請人
橋口初枝
右申請人ら両名訴訟代理人弁護士
同
寺沢勝子
同
宮地光子
同
岩嶋修治
同
山口健一
同
徳井義幸
同
安達徹
同
野村克則
被申請人
北陽電機株式会社
右代表者代表取締役
尾崎一義
右訴訟代理人弁護士
吉村洋
同
村林隆一
同
今中利昭
同
松本司
同
釜田佳孝
同
浦田和英
同
谷口達吉
同
村上和史
主文
一 本件仮処分申請は、いずれもこれを却下する。
二 訴訟費用は申請人らの負担とする。
事実
(当事者の求める裁判)
一 申請の趣旨
1 被申請人は、申請人らを被申請人の従業員として仮に取扱え。
2 被申請人は、
(一) 申請人別府英子に対して、昭和六〇年一一月以降毎月二七日限り金五万九一六〇円
(二) 被申請人橋口初枝に対して、昭和六〇年一一月以降毎月二七日限り金八万一五六〇円
を仮に支払え。
3 訴訟費用は被申請人の負担とする。
二 申請の趣旨に対する答弁
主文同旨
(当事者の主張)
第一申請の理由
1 被申請会社は、オートカウンター(自動計数器)、自動扉、光電センサー(光探知装置)等の製造、販売を目的とする株式会社(資本金五〇〇〇万円)であり、肩書地に本社、尼崎市及び大阪市淀川区に製造工場を有している。従業員は、約二八〇名であり、正社員、嘱託、パートタイマーによって構成されている。
2 申請人らは、昭和五九年五月七日、賃金時間給五六五円(ただし、昭和六〇年四月から金五八〇円に改訂)で被申請会社に雇用され、申請人別府は被申請人三国工場製造二課でオートカウンターの梱包作業に、また、同橋口は同工場資材課でオートカウンターの部品出庫作業にそれぞれ従事してきたものであるが、昭和六〇年一〇月当時、申請人別府は基本賃金金五万九一六〇円(同年九月及び一〇月分の平均)同橋口は、基本賃金金七万六五六〇円、皆勤手当金五〇〇〇円合計金八万一五六〇円(同年九月及び一〇月分の平均)の給料の支給を受けてきた。
3 被申請会社は、昭和六〇年一一月七日以降、申請人らと被申請会社との間の雇用契約が終了したとして争い、申請人らの従業員としての地位を否定し、申請人らに賃金の支払いをしない。
4(一) 申請人別府の家族は、会社員の夫と長女(中学三年)長男(小学三年)の四人家族であるが、夫の給料だけでは生活を維持できず、自らも、夜間、スナックを経営して生計を補ってきたが、折からの不景気でスナックの売上げも伸び悩み、さらに生計を補う必要が生じたため、会社へパートタイマーとして勤務するようになったものである。したがって、被申請会社からの賃金が得られないと、経済的にも大きな痛手である。
(二) 申請人橋口の家族は、寿司店に板前として勤務する夫と、長男(五才)、長女(三才)の四人家族であるが、分譲マンションを購入したため、夫の給料のみでは生計が維持できず、被申請会社に勤務するようになったものである。したがって、被申請会社からの賃金が得られないとローンの支払いにも支障が出る状況である。
(三) したがって、申請人らは、いずれも本案判決を待っていては、申請人らと家族は経済的に困窮し、回復し難い重大な損害を被ることが明らかである。
第二申請の理由に対する認否及び抗弁
一 認否
1 申請の理由1ないし3の事実は認める。
2 同4の事実は知らない。
二 抗弁
申請人らと被申請会社間の雇用契約は、いずれも第一回目が昭和五九年五月七日から同六〇年五月六日まで、第二回目が同年五月七日から同年一一月六日までの期間の定めのある契約(以下、本件雇用契約という)であり、右期間の満了により、本件雇用契約は終了したものである。
その経緯並びに事情は、次のとおりである。
1 本件雇用契約の導入の経緯及びその運用
(一) 被申請会社は、従前、期限の定めのないパートタイマー(以下、「長期パート」という)の制度をとっていた。
(二) 昭和五一年の不況時に、長期パートでは期間の満了によって人員整理が行えず、全員を一時帰休とする処理を採らざるを得なかったことを教訓として、不況時に対応するため、また、昭和五六年四月から昭和六一年三月までの五か年の経営方針を決める経営五か年計画の準備立案作業において、パートタイマーは被申請会社の近隣に在住する家庭の主婦が大部分であり、就業時間の融通がきかないこと等から生産ラインに支障が生じ、生産効率が悪いこと、及び将来、半導体技術の高度化に伴い、従業員にも高度技術が不可欠であることを考慮して、パートタイマーを暫時減少させていく方針を立て、かつ、期間の定めのあるパートタイマー制度の導入を計画した。
そして、昭和五四年一〇月一日以降は、期間一年のタイマー(以下、「短期パート」という)制度を実施したのである。
(三) 当初の運用は、被申請会社の意図としては、短期パートのうち、成績が良好である者については、さらに契約を継続し、成績が不良な者は、期間満了により契約関係を終了させる運用をなす予定であった。
そして、昭和五六年、右の運用を須田広子に適用し、同人を継続して雇用しようとし、同じ短期パートであった高本トシ江を期間満了により契約関係を終了させようとしたところ、被申請会社と右高本及び組合との間で紛争が生じた。その結果、被申請会社としては、一律に期間一年とし、再雇用する場合にも半年に限定するという制度に変更したのである。
2 本件雇用契約の期間の定め
(一) 一般に、使用者がその企業経営上、景気変動に対応し、また、将来の経営政策より企業体質を強化しようと計画することは当然であり、そのため従業員の構成等を右目的にそって編成しようとすることも、また当然である。
また一方、従業員の構成等に関して、使用者は労働基準法等労働諸法令を遵守することも当然のことである。結局、使用者は労働基準法等労働諸法令を遵守して、企業体質を強化しなければならないのである。
(二) 他方、雇用契約の期間を定めることは、その期間が一年以下である限り、当事者の自由であって、労働基準法その他の法律上も短期の有期雇用契約を締結すること自体は何ら禁じていないところであり、そのような制度を採用するか否かは使用者の裁量に委ねられているのである。
(三) 右のとおり、短期パート制度は、企業経営上の合理的必要性に基づくものであるのみならず、申請人らの立場からみても短期間の職場の供給源として希望に添うものである。
すなわち、短期パートタイマー就職希望者としては、その大部分が家庭の主婦である関係上、責任が少なく、家事に支障のない範囲で、しかも、配偶者の扶養家族控除が削滅しない限度で家計の補助者となる程度の収入を得るのが、その希望するところである。
(四) 被申請会社が短期パートを採用するにあたり配付したビラには「契約期間一年」との記載があり、これによって応募してきた申請人らと面接した被申請会社人事課長亘理は、申請人らに対し、契約期間は一年であり、また、仮に再雇用してもその期間は半年であることを説明し、申請人らもこれを承諾し、「雇用期間 昭和五九年五月七日から昭和六〇年五月六日まで」と明記された雇用契約書に署名捺印している。
右の経緯により、被申請会社は、申請人らを昭和五九年五月七日から昭和六〇年五月六日まで雇用し、さらに、同月七日から同年一一月六日まで再雇用したのである。
(五) 右のとおり、本件雇用契約は、昭和五九年五月七日から、昭和六〇年五月六日までの期間一年昭和六〇年五月七日から同年一一月六日までの期間六か月の契約であり、したがって、申請人らと被申請会社との間の雇用契約は、昭和六〇年一一月六日の経過によって終了しているのである。
第三抗弁に対する認否並びに再抗弁
一 認否
1 抗弁冒頭の本件雇用契約に期間の定めがあったとの事実は否認する。
2 同1(一)の事実は認める。
3 同1(二)の事実中、昭和五一年に全員を一時帰休したこと、昭和五四年一〇月一日以降、短期パート制度を導入してきたことは認めるが、その余は争う。
4 同1(三)の事実中、被申請会社と高本及び組合との間に紛争が生じ、被申請会社が高本をさらに六か月間雇用したことは認めるが、その余は争う。
5 同2(一)ないし(三)は争う。
6 同2(四)の事実中、申請人らが当初、雇用期間を昭和五九年五月七日から一年間と定めて採用され、さらに、同月七日から同年一一月六日までの期間として雇用されたことは認めるが、その余は争う。
7 同2(五)の主張は争う。
8 本件雇用契約における期間の定めは、それによって当然契約が終了するとの趣旨のものではなく、その時期に更新拒絶の意思表示が必要であるとの趣旨を定めたにすぎない。
すなわち、被申請会社におけるパートタイマーの退職、解雇については、パート雇用規定第二五条により就業規則第一二章が準用されているところ、同規則第八四条及び同第八五条には次のとおりの定めがある。
第八四条(退職)従業員が次の各号に該当するときは退職する。ただし、第三号の場合において、業務上特に必要と認めたときは、引続き雇用することがある。
1 自己の都合により退職を申し出て承認されたとき
2 死亡したとき
3 雇用期間の定めがある場合、その期間が満了したとき
4 第八〇条の事由による休職期間が満了したとき
5 停年に達したとき
第八五条(停年退職) 従業員は、満五五才に達したときは、停年退職とする。ただし、業務の都合で会社が特に必要と認める者には、別に定めるところによって再雇用する。
要するに、右両規定を比較すれば、雇用期間満了の場合(第八四条三号)には、「業務上特に必要と認めたときは、引続き雇用すること」とされているのに対し、停年の場合は、「業務上特に必要と認めたときは、別に定めるところによって再雇用する」として、期間満了による退職と停年による退職とを区別して取扱っていることが明らかである。そして、右両規定によれば、停年退職の場合には、停年に達した時に、何らの意思表示を要せずして、当然退職となるのに対し、期間満了のみによっては当然退職とならず、被申請会社が従業員を退職させるには、被申請会社において、新たに更新拒絶の意思表示を行うことが必要となるのである。
二 再抗弁
仮に、本件雇用契約に期間の定めがあったとしても、その定めは、「相当な理由」又は「社会的合理性」を欠いた無効なものであって、その真の目的は、被申請会社にとって好きなときに労働者を雇止めできるという景気変動に伴う雇用調整の安全弁としての特質を生かすために、反復更新による期間の定めのない契約への転化という判例理論の適用を回避すること及び被申請会社従業員で組織する全大阪金属産業労働組合北陽分会(以下、組合という)の組合活動の活発化を回避することにある。
その事由は次のとおりである。
1 雇用契約において、期間の定めをする場合に、この期間の定めには解雇の場合と同様に、「合理的な相当な事由」又は「社会的な合理性」、すなわち、(イ)業務それ自体の性格が季節性、臨時性を有する場合、(ロ)業務自体は臨時性をもたなくとも、就労する労働者の地位からみて臨時的、暫定的なものとして取扱うことがやむを得ないと認められる場合、(ハ)労働者の側が客観的事情に基づいて、その真意に基づき有期契約を望む場合、が存在することを要し、これを欠く「期間の定め」は無効である。
2 申請人らの業務は恒常的業務であって、何ら季節性・臨時性をもつものではない。
(一) 申請人橋口は、被申請会社三国工場資材課材料係(以下、材料係という)に所属し、生産管理課の指示による部品払出票に基づき、組立製品の種類・数量に応じて部品を倉出し揃える作業に従事してきたものであるが、その業務自体、製品製造が続く限り、恒常的に必要な業務であって、何ら季節的、臨時的性質を持つものではない。
材料係の業務は、従来、社員、嘱託社員、長期パートタイマーによって行われてきたものを昭和五五年以降、長期パートタイマーの退職に伴う補充として、また、業務量の増加に伴い人員が不足したため、一年契約のパートタイマーを配置するに至ったものであり、申請人橋口解雇以前は男子正社員五名、男子嘱託社員四名、長期パートタイマー二名、一年契約のパートタイマー三名で行っていた。さらに、申請人橋口解雇後は、右業務は、男子正社員五名、男子嘱託社員五名、長期パート二名、一年契約のパートタイマー一名により行われている。右のとおり、材料係では、申請人橋口解雇の前後で業務量に差はないし、また、男子正社員、男子嘱託社員、長期パートタイマー、一年契約のパートタイマーのいずれもがほとんど同じ業務に従事しているのであって、僅かに、男子正社員について仕事の段どりの指示が加わるに過ぎない。
(二) 申請人別府は、被申請会社三国工場第二製造課オートカウンター包装係(以下、包装係という。)に所属し、検査の済んだ製品を包装する作業に従事してきたものであるが、その業務自体、製品の製造が続く限り、恒常的に必要な業務であって、何ら季節的・臨時的性質を持つものではない。
包装係の業務は、従前、期間の定めのない女子嘱託社員三名が行ってきたが、昭和五四年以降、右嘱託社員が定年退職していくのに伴い、特別嘱託社員一名と一年契約のパートタイマー三名が右業務に従事するようになったものである。
被申請会社は、申請人別府解雇後は、男子特別嘱託社員一名、男子嘱託社員二名、一年契約のパートタイマー二名で右包装業務を引続き行わせているものであり、申請人別府解雇の前後で業務量に差はない。
(三) また、申請人別府の業務は、(イ)製品の種類が一〇〇〇以上にも及び製品の種類ごとに作業内容が異なるため、作業内容を覚え、間違えずに行うだけでも相当の日数を要すること、(ロ)製品にシールを貼る作業についても、貼る製品と貼らない製品があり、製品によって貼るシールの枚数もどのシールを貼るのかも異なること、(ハ)製品によっては、包装だけではなく、ドライバーでビスを止めてワイヤーをはめ、カバーにエアーをかけてほこりを除去し、カバーを被せる等の作業をしなければならないこと、(ニ)包装箱も色々な種類があり、箱を作る作業が必要なものもあり、箱に製品の型式・仕様、行先、何ボルトかなどを三色のスタンプを使用して捺印すること、(ホ)包装箱の中には製品・取扱説明書・付属品・発泡スチロールを入れるが、取扱説明書も製品によって違うのは勿論、国内向、輸出向とで異なり、付属品も多種類で入れるものと入れないものがあり、発泡スチロールも大小さまざまであること、(ヘ)箱に入れてからの封印もテープが五種類あり、ダンボール箱についてはテープの貼り方も種類によって異なること等、業務の態様が一様でなく、これらを正確に覚え、一人で包装作業ができるようになるのに一年三か月程かかる。申請人橋口の業務は、(イ)オートカウンターの材料部品調達の仕事であり、大別するとNHとNKの二種類の機種についてであるが、細かい違いを含めると二〇ないし三〇種類であり、一個の製品につき一〇〇以上の部品を揃えねばならないこと、(ロ)材料係では部品払出票に基づき部品と数量を揃えるのであるが、表示された部品の特定と所在場所を正確に覚えなければならないこと、(ハ)取揃えた部品が部品払出票の記載と整合するかどうかの確認をする必要があること等、覚える事柄が多いため、一人前の仕事ができるようになるには一年を要するのである。
このように、申請人らの業務内容からすれば、本件期間の定めは、仕事を覚え、やっと一人前になった段階でやめさせることになるもので、全く合理性がなく、被申請会社にとっても非能率である。
3 他方、パートタイマーの雇用期間を正社員、嘱託社員と差別的取扱いをする合理的理由はない。
すなわち、(イ)被申請会社は、パートタイマーの雇入の際、その雇用期間について、一年間の期間満了後も希望者は引続き六か月間雇用することを明らかにし、実際上もこれまで希望者は全員引続き六か月間雇用してきたこと、(ロ)昭和五四年一〇月一日から雇用期間を一年とするパートタイマーが導入される以前は、パートタイマー導入の当初から十数年間もの間、期間の定めがなく雇用されてきたものであり、また、期間の定めがなされるようになった前後でパートタイマーの担当する業務内容に特段の変化がなかったこと、(ハ)被申請会社は、パートタイマーの雇用期間を含む採用規定について、パートタイマー雇用規定第三条において、「就業規則第二章を準用する」旨、解雇、退職に関する規定も、同雇用規定第二五条において、」就業規則第一二条を準用する」旨、定年について、同二四条において、「満五五才以上継続雇用しない」旨、各規定し、正社員と規定の仕方を特に区別していないことからみても明らかである。のみならず、パートタイマーを一年六か月で退職させることは、被申請会社にとって能率低下等によって不利益になりこそすれ、何ら利益となるものではないし、経費節減の効果もない。
4 申請人ら両名には、期間の定めを必要とする客観的事情が存在しないし、さらに、申請人ら両名の真意についてみても、申請人ら両名は、一応契約期間が一年間であるという認識を有していたといえるだけで、真意に基づいて、期間の定めのある雇用契約を締結したものではない。
5 被申請会社には、組合敵視の姿勢があり、組合活動の活性化を阻害することが申請人らとの間で期間の定めのある雇用契約を締結するに至った一つの事由である。
その経緯は、次のとおりである。
(一) 昭和四六年四月、組合は、被申請会社従業員により結成され、結成当時、約一八〇名(組織率約六〇%)の組合員がいたが、現在は、四三名(同一五%)となっている。
(二) 被申請会社は、組合結成以来、一貫して組合否認の姿勢をとり続け、次のような不当労働行為を行ってきた。
(1) 組合結成直後、被申請会社は、人事課長を通じて第二組合結成の動きを具体化させ、被申請会社従業員が組合に組織化されるのを妨害し、また、被申請会社三国工場製造部長を使い、同十三工場に勤務していたパートタイマー、嘱託等の組合員に対し、脱退工作を行った。
(2) 昭和四七年ころ、被申請会社は、組合の青年部長代行・拡大執行委員平井及び組合員天川の両名を強行に東京配転し、組合活動に重大な障害をもたらした。
(3) 組合結成以前から存在した社員代表会議と組合との差別的取扱いをし、慶弔のための不就労につき、社員代表者会議の者には賃金カットを行わず、組合員に対しては賃金カットをしてきた。
また、被申請会社は、社員代表者会議との間で妥結した賃上げ、一時金額を組合に対して押しつけてきた。
(4) 被申請会社は、組合が休憩時間中に機関紙を配布するという正当な組合活動に対しても妨害をしてきた。
(5) 昭和五〇年三月二四日、被申請会社は組合と団体交渉を行い、一時帰休制の実施は組合との了解確認の上でなければ行わないと約束しながら右約束に反し、管理職を動員したうえ、個々の従業員に一時帰休を承認する署名を強要するという形をとり、同年四月に、一時帰休の実施を強行した。
(6) 昭和五四年九月、被申請会社は詐欺的方法をもって、パートタイマーの就業規則を不利益変更している。
すなわち、被申請会社は、右就業規則の変更が、精勤手当の支給基準の切り下げと定年年令の五才引下げという重大な不利益変更を内容とするものでありながら、組合に対しては、事前に、従来の雑多な規則を整理するだけで変更したところはない旨積極的に虚偽の説明をして組合を欺いたのである。
(7) 昭和五七年ころ、被申請会社は、組合との間に、配転については組合と事前に協議する旨の協約がありながら、これを無視し、組合との協議を行わないで組合三役の大谷に対する配転を強行した。
(8) 昭和五八年ころ、被申請会社は、組合員天川に対する東京配転を強行した。
(9) 被申請会社代表者尾崎は、創立記念日に行われた懇親会の席上、組合員であった合田佳典に対し、「まだお前は組合に入ってんのか」という発言をなし、組合員であることを嫌悪し、暗に組合から脱退すべきことを示唆した。
(10) 被申請会社人事課長亘理は、パートタイマー採用面接時に、面接に来た人全員に対し、組合の説明を行い、そのなかで、従業員の中で組合に入っている者は少数であること、あるいは、組合の行うシュプレヒコールについて触れ、シュプレヒコールが組合の会社に対する要求であって、特に気にすることはない等と話し、右説明を通じて、暗に被申請会社が組合に嫌悪感を持っていることを示し、採用されたパートタイマーが組合に加入することがないように意図した。
(三)(1) 昭和四六年四月に組合が結成されたが、当時四一名いたパートタイマーは全員組合に加入した。
組合は結成以来、従業員の雇用形態を問わない組織化に努め、パートタイマーの要求実現についても積極的に取組んできた。例えば、昭和四八年にはパートタイマーに年次有給休暇六日を保障させ、昭和四九年には生理休暇を有給にさせた。また、これまでパートタイマーは、社内の親睦団体一陽会への加入資格が認められず、慰安旅行などについても、実費を払って参加していたのを組合が取上げ、昭和五六年には、パートタイマーの一陽会加入を実現させた。さらに、毎年の春闘、一時金闘争においても、パートタイマーの要求実現のために努力してきた。
この結果、組合の組織率は、社員、嘱託社員における組織率が前記のような被申請会社の攻撃を受けて減少していったのに対し、パートタイマーにおける組織率は、昭和五四年当時(一年契約のパートタイマー制度導入前)においても過半数を超えていた。
(2) 右のような経過から、被申請会社は、これ以上パートタイマーを増加させることは組合員を増加させることになり、ひいては組合活動の活性化につながると考え、新しく採用されたパートタイマーが組合に組織されないようにすること、仮に組織された場合でも契約期限切れで短期間で職場外に放逐できるようにするため、昭和五四年からのパートタイマーの採用については、組合の組織化がやりにくい一年契約のパートタイマーを導入してきたのである。
(3) 右一年契約のパートタイマー制度が導入された結果、昭和五四年から同六〇年一月まで六四名のパートタイマーが雇用されたが、同五五年二月以降同六〇年一月まで組合に加入した有期雇用のパートタイマーは一名もいなかった。
(4) ところが、昭和六〇年三月に入って、申請人を含むパートタイマー全員(一六名)が組合に加入するや、被申請会社は、一年契約のパートタイマーの採用も取り止める旨明らかにしてきたのである。
(四) 以上の経過からすると、一年契約のパートタイマーの採用が組合活動の活性化を回避する目的であったことが明らかである。
三 再抗弁に対する被申請会社の認否
1 再抗弁冒頭の主張及び同1の事実は争う。
2 同2(一)、(二)の事実は認める。
同2(三)の事実中、一人で包装作業ができるようになるのに一年三か月程かかること、一人で材料係の仕事ができるようになるのに一年程かかることは争うが、その余は認める。
3 同3(イ)、(ロ)の各事実、同(ハ)の事実中、その主張のような規定の存することは認めるが、その余は争う。
被申請会社の従業員の種類としては、正社員、嘱託社員及びパートタイマーがあるが、その間には、採用基準、労働条件等に、次の差異があり、雇用期間について、取扱いを異にする合理性がある。
(イ) 採用対象としては、嘱託社員においては、被申請会社の定年退職者ないし他社の退職者であり、パートタイマーにおいては、被申請会社工場近隣在住の主婦が大部分であること。
(ロ) 採用に際しての面接者、審査項目、審査方法に差異があり、また、その職種についても、正社員が特殊技術者の場合の外は、特に限定されるものでないのに対し、嘱託社員、パートタイマーにおいては、事務職ないし梱包工等、その職種、を限定して採用していること。
(ハ) 職務に対する権限、責任についても、正社員がその地位に応じた権限、責任を有することは勿論、嘱託社員においても、被申立人の定年退職者の場合は、管理職の地位にあり、決済権限を有する者がいるのに対し、パートタイマーにおいては、そのような権限、責任はなく、あくまで右限定された職種に従事する者としての役割を果しているにすぎないこと。
(ニ) 労働時間についても、正社員、嘱託社員においでは、午前八時一五分から午後五時に対し、パートタイマーにおいては、午前九時から午後四時であること、また、現実の欠勤率においても差異があること、さらに、正社員、嘱託社員においては、業務上の都合による超過勤務があり、その時間はそれぞれ一か月一五時間ないし二〇時間、一か月六時間ないし七時間であるのに対し、パートタイマーにおいては、原則として超過勤務はなく、その時間は一か年四時間ないし五時間程度であること。
4 同4の事実は争う。
5 同5の冒頭の主張は争う。
同5(一)の事実は認める。
同5(二)の事実中、平井、天川を東京に配転したこと、組合から組合員の慶弔のための不就労を社員代表者会議と同旨に取扱うよう要求が出されるまで、組合に対し、その主張の賃金カットをしていたこと、社員代表者会議と妥結をみた賃上げ額等を組合に提示したこと及び大谷を配転したことは認めるが、その余は争う。
同5(三)の事実中、被申請会社が昭和四八年よりパートタイマーにも、年次有給休暇を保障したこと、昭和四九年には生理休暇を有給化したこと及び昭和六〇年三月、申請人らを含むパートタイマー全員が組合に加入したことは認めるが、その余は争う。
同5(四)の主張は争う。
被申請会社は、短期パートを暫時減少させる予定であったし、現在は雇用していないのである。
仮に、被申請会社に申請人主張の意図があったならば、逆に短期パート制度を維持継続させていたであろう。
けだし、短期パート制度を廃止するということは、その不足労働力を充たすために、正社員、嘱託社員を採用することとなり、これはとりもなおさず組合が希望する雇用期間の長い、つまり、組合加入の容易な従業員が増える結果となるからである。
理由
一 申請の理由1ないし3は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件雇用契約について、被申請会社主張の期間の定めがあるか否かについて判断する。
1 初めに、被申請会社が短期パート制度を採用した経緯、その運用について検討する。
本件疎明資料及び審尋の全趣旨に争いのない事実を総合すれば、次の事実が一応認められる。
(1) 被申請会社は、自動計数器、自動扉、光電センサー等の製造・販売を目的とし、肩書地に本社、尼崎市及び大阪市に製造工場を有する株式会社であり、従業員は、約二八〇名で、正社員、嘱託社員及びパートタイマーで構成されているところ、パートタイマーの採用につき、昭和五四年一〇月以前にあっては、長期パート制度を採用していたこと、
(2) ところで、被申請会社は、昭和五四年ころ、同五一年ころの不況から脱し、景気の回復に伴い、従業員としてパートタイマーの補充が必要となったが、その際、(イ)昭和五一年の不況時に人員整理を行う必要があったものの、パートタイマーについて、長期パート制度を採用していたため、契約期間終了を理由とする雇止めによる雇用調整ができず、正社員と同様、パートタイマーに対しても一時帰休制度を適用しなければならないこともあって、従前の長期パート制度から不況時の雇用調整に対応できるような短期のパートタイマー制度に変換していくこと、(ロ)パートタイマーの大部分が被申請会社の近隣に在住する家庭の主婦であり、就業時間(勤務時間は、正社員、嘱託社員が午前八時一五分から午後五時までであるのに対し、パートタイマーは午前九時から午後四時まで)の融通がきかないこと等から、生産ラインに支障が生じ、生産効率が悪いこと、また、将来、半導体の高度化に伴い、従業員にも高度技術が不可欠であることから、短期パート制度を採用したうえ、右短期パートのうち、成績良好者については、さらに契約を継続し、成績不良者は、期間満了により契約関係を終了させることにしたこと、その結果、被申請会社は、昭和五四年一〇月一日以降採用のパートタイマーの契約の期間を一年間とし、その後は一年毎に再契約をすることにし(但し、当初、第一回目の契約は三か月(試用期間)、第二回目以降一年毎に再契約をしていたが、昭和五四年八月以降採用者からは、当初三か月間の試用期間を置くことに実質的な意味を見出せないとして、第一回目から期間を一年間とすることになった。)、そのような運用がなされていたこと、そして、昭和五四年一〇月以降昭和五五年八月までに採用されたパートタイマーは、一〇名であったが、そのうち第二回目(前記のとおり第一回目は三か月、第二回目は一年)の雇用期間まで勤務した者は僅か二名(須田広子及び高木トシ江)にすぎず、その余は早い者で数日、大部分は一〇か月未満で退職していたこと、ところで、被申請会社は、右須田については、昭和五六年二月五日に期間一年間とする第三回目の再契約をしていたが、高木については第三回目の再契約をしない旨決定したところ(第二回目の契約終了日は同年四月三〇日)、高木及び組合との間で紛争が生じ、結局、同年五月一日から六か月間に限って再契約をすることで合意が成立したこと、そのため、被申請会社としては、パートタイマーの再契約にあたり、雇用者を選別することによって無用の紛争の発生を懸念し、パートタイマーは一律に期間一年とし、必要止むを得ない場合には六か月間に限って再契約をするとの、いわゆる短期パート制度の導入方針を固め、昭和五六年八月以降からは、厳格にこれを適用してきたこと、そして、昭和五六年以前に採用されたパートタイマーの雇用契約書の大部分には、「再契約については期限前に話合を行います」との記載がなされていたが、それ以後は、「契約期間は上記期間とする」との記載に変更されていること、
(3) これより先の昭和五五年秋ころから、被申請会社では昭和五六年四月からの経営五か年計画の立案作業に入ったが、自動制禦機器の技術の高度化に伴い、従業員の高度技術が不可欠であり、パートタイマーの技術、技能、出勤率を考慮すると、従業員構成についても体質改善が必要であり、その一環として、家庭の主婦を主体とするパートタイマー制度を漸次縮少(ママ)し、学卒者等の正社員あるいは嘱託社員に切替えて行くことにしたこと、しかし、被申請会社において、実際には、経営五か年計画実施期間に入っても、思うように適当な学卒者、嘱託の採用ができないまま、短期パートの採用が行われ、昭和五六年以降同六〇年までは常時十数名の短期パートが稼働していたが、同六一年になってこの新規採用を中止したこと、昭和五六年以降昭和六〇年までに被申請会社に採用された短期パートは、約六四名に及んでいるが、この間、二回の雇用契約を締結して、通算一年六か月勤務した者がその約三分の一強程度であり、その他の大部分の者は、第一回目の契約期間の途中で退職していること、また、昭和五五年から昭和五九年度までの正社員、嘱託社員、パートタイマーの欠勤率(年休、生理休暇等は含まない)は、平均(パーセント)で年次順に、正社員が、〇・九、〇・四、〇・三、〇・五、〇・三、嘱託社員が一・七、〇・三、二・二、〇・六、〇・二、パートタイマーが、五・九、三・九、四・三、三・八、四・七となっていること、被申請会社では、右のようなパートタイマーの勤務状態を受け入れ、これを前提に対応してきたこと、
(4) 被申請会社における、従業員の採用手続、その基準、運用は、原則として正社員については、面接者が副社長、専務取締役及び人事部長、審査項目が、学歴・専攻学科・成績・人間性・将来性・作文、嘱託社員について、面接者が専務取締役・人事部長・人事課長、審査項目が職歴・人間性・体力・視力、パートタイマーについては、面接者が人事課長・審査項目が健康(特に視力)・人間性・職場適応性・通勤の容易さ、であること、また、右三者の業務態様は、正社員は特殊技術、技能者以外は職種、勤務地が特定されず、業務都合により超過勤務があり、嘱託社員は、職種、勤務地が特定され業務都合により超過勤務があり、パートタイマーは、職種、勤務地が特定され、原則として超過勤務がないこと、
2 次に、申請人らが雇用された経緯並びに担当職務の内容について検討する。
本件疎明資料に審尋の全趣旨並びに争いのない事実を総合すれば、一応次の事実が認められる。
(1) 被申請会社は、昭和五九年四月ころ、新聞の折込み広告として、「女子パート募集、作業内容―簡単な事務、きれいな軽作業、契約期間―一年間、勤務時間午前九時―午後四時(六時間勤務)、募集期間四月二八日まで」と記載した募集要項を三国工場附近に配布したこと、申請人らは、右広告を見て被申請会社に応募し、そのころ採用面接を受けたこと、その際、面接を担当した被申請会社の亘理人事課長(以下、亘理課長という)は、申請人らに対し、健康状態、視力、通勤距離等に関する質問をした後で、作業内容が、製品の包装と部品の払出しの二種類であるが、いずれかを担当してもらうこと、労働条件として、賃金、賞与等の内容を説明し、さらに、期間は一年間であること、但し、契約期間満了の時点で会社の仕事が忙しいか、あるいは本人が希望すれば、半年に限って再雇用するが、それ以上は理由の如何を問わず再契約はしない旨話したこと、その後、被申請会社は、申請人ら両名を採用し、申請人橋口を材料係へ、同別府を包装係に配置する旨を内定し、申請人らに対し、採用するので同年五月七日に出頭するよう電話で通知したこと、
(2) 昭和五九年五月七日、被申請会社に出頭してきた申請人らに対し、亘理課長は、それぞれに配置先を告知したうえ、雇用期間昭和五九年五月七日から昭和六〇年五月六日、就労場所三国工場、仕事の内容一般事務・軽作業・その他・就業の時間午前九時から午後四時まで、その他として契約期間は上記限りとする、との記載のある雇用契約書に署名押印を求め、申請人らもこれに応じて、右契約書に署名押印したこと、その際、亘理課長は、同日採用された申請人らを含む短期パートに対し、会社の組織概略を説明し、さらに、被申請会社には組合があり、加入は任意であって、従業員の全員が加入しているものでないこと並びに組合が時折シュプレヒコールをすることがあるが、被申請会社に対する要求であるので気にする必要はない旨説明したこと、
(3) 申請人らは、入社後一か月以上経過してから、職場の同僚から、短期パートについては期間の運用が厳格で、第一回目の雇用契約の期間は一年であり、再契約の期間は例外なく六か月である旨聞かされ、また、自らも、二回の契約期間の満了により、仕方なく退職して行く短期パートを見てきたが、第一回目の契約期間満了の直前である昭和六〇年四月二七日付で期間を同年五月七日から同年一一月六日までとし、その他の労働条件は前記第一回目の雇用契約書の記載と同様の条件で雇用されることになり、その旨の雇用契約書に署名押印したこと、そして、申請人らは昭和五九年五月七日から同六〇年一一月六日まで被申請会社で現実に労働したが、この間の欠勤率(出勤すべき所定日数に対する欠勤日数、ただし、欠勤日数には年次休暇、生理休暇、特別休暇は含まない。)は、申請人別府が一二・九パーセント、同橋口が八・八パーセントであったこと、
(4) ところで、申請人橋口は、前記のとおり、材料係に配置されたが、その仕事の内容は、製品の製造を受注した場合、その製作に必要な材料の調達に関する部門であり、具体的には、材料調達の明細書に基づいて、組立製品の数量毎に部品を倉出して揃えるのであるが、組立製品毎の部品点数は少ないもので約一八点、多いものでは一〇〇点以上に及び、平均的には三〇数点となり、材料の判別等の仕事に慣れるまでに、ある程度の日時を要することは否定しえないが、作業としては単純作業といえること、また、申請人別府は、包装係として配置されているが、その仕事の内容は、組立を完了した製品に、取扱上の諸注意事項を書いたラベルの貼付、製品のごみ、ほこり等の除去、製品の仕様、型式を包装箱に捺印し、その内に、製品、説明書、付属品を入れ封印するものであるが、機種が多いため、作業手順、製品の識別にある程度の日時を要するが、作業としては、被申請人橋口の場合と同様、単純作業ということができること、昭和六〇年一一月七日以降、申請人らの担当していた業務は、嘱託社員が担当するようになったこと、
(5) 申請人らは、入社後、被申請会社での長期勤務を希望するようになったが、前記のとおり、被申請会社の短期パート制度の運用が厳格であって、就労希望のある同僚がパート期間終了を理由に雇止めされ、退職して行くのを見て、昭和五九年末ころから、短期パート制度の厳格な運用を改め、就労継続希望者については、一年六か月以上の勤務が可能になるように被申請会社と交渉するよう組合に働きかけ、昭和六〇年三月には、自らも組合に加入したこと、ところで、組合におけるパートタイマー(長期及び短期パートを含む)の組織率は、昭和四六年の組合結成当時は一〇〇パーセントであったが、漸次減少し、昭和五二年度三七パーセント、昭和五四年度三〇パーセント(短期パート四名)、昭和五六年度三二パーセント(同一〇名)、昭和五八年度二二パーセント(同一二名)であったが、昭和六〇年度には八七パーセント(同一六名)に増加し、昭和六一年度六三パーセント(同一名)となっていること、
3 以上認定の事実によれば、申請人らと被申請会社との間の雇用契約は、第一回目が昭和五九年五月七日から同六〇年五月六日、第二回目が同年五月七日から同年一一月六日までとする期間の定めのある労働契約であり、その期間の趣旨は、いずれも文字どおり、契約の終期を定めたものであることが明らかである。
申請人らは、被申請会社のパート雇用規定第二五条、就業規則第八四条、第八五条の規定の趣旨からして、本件雇用契約における期間の定めは、更新拒絶が必要であるとの趣旨を定めたものである旨反論し、本件疎明資料によれば、その主張のとおりの各規定の存することが、一応認められるが、右各規定の文言、その趣旨からみて、申請人ら主張のように解することは、到底できないところである。
三 申請人らは、本件雇用契約の期間の定めは無効である旨主張するので、以下この点について判断する。
申請人らは、労働契約に期間の定めをするには、「相当な理由」又は「社会的合理性」を必要とし、その具体的な場合として、(イ)業務自体の季節性、臨時性、(ロ)就労する労働者の地位からみて、臨時的、暫定的に取扱うことがやむを得ない場合、(ハ)労働者が客観的事情に基づいて真意に有期契約を望む場合を挙げ、これを欠く有期の労働契約は無効である旨主張する。
しかしながら、一般的に、雇用契約に期間を定めることは、その期間が一年以下である限り当事者の自由であって、民法、労働基準法その他の実定法上も、短期の期間を定めた雇用契約を締結すること自体を制約する規定はないから、このような制度を採用するか否かは、使用者側の裁量に委ねられているといわざるを得ない。したがって、一年以下の有期の雇用契約を締結するには、常に、「相当な理由」又は「社会的合理性」を必要とすると解することは困難である。ただ、右有期の雇用契約の採否が使用者側の自由裁量に委ねられるといっても、労働者保護の観点からそこには自ら限界があり、専ら労働条件を潜脱する等、反社会的な不法な意図に基づいてなされるような場合には、公序良俗違反として、無効とされる余地はある。
これらの観点から本件についてみるに、前認定の事実によれば、申請人らの担当業務が、一時的、臨時的なものではなく、被申請会社の恒常的業務の一部ということができるが、その作業内容は、単純作業であって、必ずしも特殊技能を要するものではなく、これにつき短期パート制度を採用したからといって、これが著しく不相当、不合理であるとまでいうことはできない。のみならず、前記のとおり被申請会社の短期パート制度の導入の主たる意図が、従業員の雇用調整にあるけれども、申請人ら担当のような単純作業について、前認定のような正社員、嘱託社員と異なった簡単な採用手続により、しかも、労働条件、処遇を異にする短期パートを採用することは、企業経営上の合理的必要性に基づくものとして許されるべきものと解するのが相当である。そして、前認定のとおり、被申請会社では、正社員、嘱託社員に対比してパートタイマーの勤務状態、ことに中途退職、欠勤率において著しい差異があったが、短期パートをそのような勤務状態の労働者として処遇、対応してきたのである。
もっとも、申請人ら主張のとおり、被申請会社においては、パートタイマー雇用規定で、パートタイマーの解雇、退職、定年に関して、就業規則を準用していることは当事者間に争いがなく、その意味では、被申請会社では、パートタイマーと正社員に対する右事項に関する規定の仕方を区別していないといえるが、右は、前記事項に関する規律、取扱いを定めたまでであって、そのことから、パートタイマーと正社員の雇用期間に関する事項全てが同一に取扱われるべきものともいえないから、右規定の存在もパートタイマーの雇用期間を正社員のそれと異なる旨定めることに何ら支障をきたすものではない。
また、短期パート契約締結に際し、労働者が真意で、有期の契約であることを承認して、契約しなければならないことは論を待たないが、労働契約も契約である以上、右をもって足り、それ以上に、それが客観的事情に基づくものであることまで必要であり、これを欠く時は無効であると解するのは相当でない。
申請人らは、前認定のとおり、本件雇用契約締結に際し、右契約の期間について、新聞の折込み広告、あるいは採用面接時における亘理課長の説明により、第一回目の契約期間が一年、再契約期間が六か月であり、右期間以上の雇用がなされないことを十分知悉しており、そのうえで、特に何らの異議を留めないで雇用に応じ、かつ、その旨の記載のある各雇用契約書に署名押印しているのであるから、真実、本件雇用契約が短期のパート契約であることを承認して締結したものというべく、また、その期間についても、最大限二回の契約で通算一年六か月の雇用期間に限られていることも容認していたのであるから、本件雇用契約締結当時、右期間を超えて雇用契約が継続されるであろうとの期待もなかったものと解される。
もっとも、前認定のとおり、申請人らは、後日になって雇用契約期間経過後も、被申請会社での継続就労を希望するようになったことが明らかであるが、このことより、締結時に遡って、本件雇用契約が真意に基づかずに締結されたものと見ることもできないから、右事実の存在も右認定に消長をきたすものではない。
さらに、申請人らは、短期パート制度の導入が、組合活動の活性化回避の目的である旨主張するが、本件疎明上、短期パート制度の導入により、組合活動の活性化が阻害されたことを認めることができない。のみならず、前認定の事実によれば、パートタイマーの組合加入率は、昭和四六年の組合結成当時、一〇〇パーセントであったものが、昭和五二年以降同五九年まではほぼ三〇パーセント前後に減少し、逆に、昭和六〇年には八七パーセントに増加し、昭和六一年度は六三パーセントに減少していることが明らかであるが、これからすると、短期パート制度を導入したことと、パートタイマーの組合加入率の変動との間に直接的な関連性をも窺うことは困難である。
なお、前認定の事実によれば、亘理課長は、短期パートの入社に際し、組合への加入が任意であり、従業員全員が組合に加入するわけではないこと、組合の行うシュプレコ(ママ)ールの趣旨について説明をしていることが明らかであるが、このことから直ちに、亘理課長ないし、被申請会社に短期パート制度の導入によって組合活動の活性化を阻害しようとした意図を推認することも困難である。
四 上来説示してきたところによれば、本件雇用契約は期間の定めのあるものであり、申請人らの本件雇用期間は、昭和六〇年一一月六日をもって終了したものということになるから、その後も雇用契約が存続することを前提とする申請人らの本件仮処分申請は、その余の点について判断するまでもなく失当である。
よって、本件仮処分申請は、申請人ら主張の被保全権利について疎明がなく、保証をもってこれに代えることも相当でないから、いずれもこれらを却下し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条九三条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 田畑豊)